進化する東京の寿司〜板前が見てきた変遷〜

こんにちは。板前寿司江戸で板前をしています、岡田です。今回は題名にもあるように、進化する寿司についてお話しようと思います。日本人はもちろん、外国人観光客からも人気の日本食といえば寿司ですが、僕が子供だった頃と今では寿司もだいぶ変わってきているんです。昔はどんな寿司が主流だったのか、そして今新たに登場してきている「進化した寿司」とは一体どのようなものなのか、板前目線から解説してみます。実は板前寿司江戸でも進化した寿司をいくつか提供しております。そちらも後ほど紹介します。

「巻き物」の種類から見えてくる寿司の変化

今と昔で大きく異なるのは、「巻き物」の種類なんですよね。僕が子供だった頃は、かんぴょう巻きとか鉄火巻き、太巻きのように、今も寿司屋で当たり前のように扱っている種類しかなかったんです。

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▶︎巻き物といったらカッパ巻きや鉄火巻きが思い浮かびますが……

けれど、今では「裏巻き」という技法が生み出されました。巻くネタもエビの天ぷら、サーモンとクリームチーズ、アボカドといったように、和に限らず、洋風なものも積極的に巻くようになりましたね。それどころか、「カリフォルニアロール」みたいに逆輸入された寿司だって人気の高い寿司として確かな立ち位置を築いているし、寿司と一口に言っても昔に比べて今はかなり多様性のある食べ物になったなぁと思います。

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▶︎海苔の上に具を巻き込むものが裏巻きと呼ばれるものです。
あ、サーモンを巻くようになったってさっき言いましたが、そもそも「サーモンの握り」だって昔はなかったんですよ。北海道に住む人は昔から食べていたそうですが、広く一般的に食べられるネタではなかったんです。今では若者を中心にサーモンの人気が高いですよね。握りのセットを頼めば必ずサーモンが一貫入っているほどです。だから、サーモンが昔はなかったということが意外に感じるかもしれないですね。

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▶︎今当たり前のように定着しているネタも昔では珍しかったりすることもしばしばあります

 

進化のカギは「見た目」のインパクト

冒頭でも触れた通り、寿司は日本人だけにとどまらず、外国人観光客からも人気が高いんです。日本へ観光に訪れる外国人観光客の数は年々増加しており、彼らが日本で寿司を食べる機会も増えてきているといえるでしょう。実際、当店でも多くの外国人のお客様がご来店します。さて、いざ「本場の日本で寿司が食べられるぞ!」となった彼らが注文する寿司はなんだと思いますか?日本人から人気の高いサーモンやマグロでしょうか?それとも食べやすいハマチやエンガワでしょうか?
もちろんそれらを注文する方もいらっしゃいますが、「目新しいもの・見た目のインパクトが強いもの」を注文する方が多いです。例えば、こぼレインボー寿司はシャリが見えないほどのネタが盛られており、写真映えするという理由で人気が高いです。ズワイガニ、ネギトロ、いくら、ウニといった人気の高いネタがまとめて一つのメニューとして提供される豪快さも、「面白い」と評価される理由でしょうね。

僕が個人的に面白いな、と思う寿司は活〆一本煮穴子ですね。寿司って、基本的には生魚をネタにしますがこれは煮ているので生魚が苦手な人でも楽しめるような寿司になっているんです。あとは、皿からはみ出るんじゃないか、と思ってしまうほどの大きさも今らしい寿司の特徴だなと思います。テーブルに提供された寿司を見た瞬間、誰もが目を見張って驚きます。
他にも、人気の高い炙りジャンボとろサーモンも、見た目のインパクト・オシャレさはもちろん、マヨネーズで仕上げた洋風の寿司というのも面白いポイントでしょう。こんな和洋折衷な組み合わせ、昔では考えられませんでしたね。

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そして、「もはやそれは寿司って呼んでいいの……?」と思う方がいるかもしれないメニューとして、うす焼き大名リブロースという寿司も当店にはあります。寿司と言えば魚がネタになりますが、この寿司は魚ではなく、これまた大きくて薄い牛肉がネタになっています。僕は「酢飯を使っていればそれはもう寿司だ」と考えるようになりましたね(笑)。写真を見ていただければわかる通り、もはやお皿からはみ出してしまうほどの大きさです。肉寿司というジャンル自体も最近流行り始め、いろんなお店で食べることができるようになってきていますが、ここまでインパクトの強い肉寿司は数々の進化した寿司を生み出した当店じゃないとお目にかかれないかもしれませんね。

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▶︎食べる前に写真に収めたくなるような見た目も、今の世の中では求められているのかもしれません

 

見た目だけじゃない!味に裏打ちされて寿司は進化している

きっとこのような進化系の寿司を知った方の中には、「見た目ばかり重視しているように見えるが、肝心の味は大丈夫なのか?」と思う方もいるのではないでしょうか。ご安心を。昔も今もお馴染みである寿司、そして新たな形態として日々生まれている新しい寿司も、人々の間で定着しているものは全て味が美味しいから残るのです。これは昔も今も変わりません。食べ物である以上、いくら見た目が注目されても最終的に判断基準となるのは味なのです。
少し話がズレるかもしれませんが、僕が若いころ、「カッパ巻きはあるのにきゅうりの握りって見たことないな」と思ったんです。あっても良さそうなのに、と思ったので自分できゅうりの握りを作って食べてみました。すると、思いのほか美味しくなかったんです。そこで初めて「きゅうりは巻き物にするから美味しいんだ」ということに気付きました。つまり、カッパ巻きがカッパ巻きとして定着しているのには、そうやって食べるのが一番美味しいから、というれっきとした理由があり、他の寿司にも共通のことが言えるということなんです。
だから、一見奇抜に見える寿司だったとしても、しっかり味の面で計算し尽くされており、結果としてインパクトのある見た目になった、ということだってあるんですよ。ぜひ、興味があれば一度挑戦してみると新しい寿司の魅力に気付けるかもしれませんね。

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▶︎どんな寿司にもこだわりが必ずあります

 

進化する寿司を板前はどう見ているのか

実は僕、40歳になる前までは「進化した寿司」というのをあまり受け入れられなかったんですよね。そんなの、寿司じゃないってやはりどこかで思っていたんです。けれど、40歳を過ぎた今、「そういう寿司もアリだな」と柔軟に受け入れられるようになったんです。固定概念にとらわれず、美味しいのであれば“変化球”もいいじゃないかって思えるようになりましたね。
きっと、昔も今のように「進化した寿司」を試行錯誤して生み出し、実際に売ってみるという動きはあったんだと思います。そして、人々の間で「美味しい!」と受け入れられた寿司は残り、やがて「進化した寿司」ではなく「定番の寿司」になっていくんだな、と僕は思うんです。だから、工夫が凝らされ、見た目のインパクトが強い寿司であっても、単に面白がられて終わり、ではなく、それが素材の良さを生かしたものであれば今後も残っていくと思います。

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