もてなし上手!味とトークが楽しめる板前寿司江戸

板前寿司江戸。入店すると直ぐに目に入ってくる大きなちょうちんや歌舞伎絵など、江戸をイメージした華やかな内装に、大人でもつい心躍らずにはいられないのだが、

やはり一番に目を奪われるのが店の中央にどどんと佇まうカウンター席であろう。

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カウンターの中、調理場に堂々と立つ板前さんの姿に緊張感を覚えつつ、あえてその席を選んでみる。

 

「こんばんは。今日はお酒を飲まれに来たんですか。」

 

席について間もなく、笑顔を向けて声をかけてくれたのは、目の前に立つ板前さんである。

柔らかい笑顔につられ緊張交じりに言葉を交わしてみる。

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―こんばんは。そうですね…お酒、

お魚にはどんなお酒が合いますかね。

 

「お魚に合うのは、辛口のお酒です。

すっきりとした飲み口の方がお魚の旨みを引き出してくれるんですよ。」

 

「お客さんは何かお好きなお魚はありますか?」

 

―好きな魚ですか…

おすすめは何ですか?

 

「そうですね、季節によってお魚の旬も変わるんですよ。

今の時期ですと、こちらのホウボウ、アイナメなんていかがですか?」

 

そう言って板前の遠藤さんが示してくれたのが、こちら。

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実は席についてからずっと気になっていた、この、目の前に置かれたキラキラと輝くお魚の宝箱のようなもの。

 

―この箱は一体……

 

「これは、”ネタ箱” と言って、江戸時代に使われていたものなんですよ。

当時は獲れたての鮮魚をそのままこのネタ箱に入れて、お客さんにお魚と、その調理法までを選んでもらっていたんです。面白いでしょう。

今でこそ高級なイメージもありますけど、それこそ寿司って当時はファストフードとして扱われていたんです。今と違って、当時はお魚を冷凍保存できる技術もないでしょ、

だから獲れたてのお魚を、その場でまるまる屋台に並べて、お客さんどれ食べますかって、握って出してたのがはじまりで。

お客さんもぱっとつまんで、帰る。ハンバーガーと一緒ですよ。」

 

そんな、寿司がファストフードだったなんて。

まさに目から鱗な話である……

 

この他にも寿司にまつわる様々な話をお二人から能弁に披露して頂き、

寿司を食べに来たはずが気づけば会話で盛り上がってしまった。

特に、「昔大トロは見た目が気持ち悪いという理由で捨てられていた」という話がとても面白いので是非、板前さんから直接聞いて頂きたい。

 

こう言っては失礼かもしれないが、

それまでお寿司屋さんの板前さんといえば、キリッとした表情で寡黙で、どことなく怖い印象があったのだが……

実際に目の前にし、直接会話をする中で感じた板前さんの印象は真逆であり、意外そのものであった。

 

そのことを率直に伝えると、板前の遠藤さんは少し照れながらもこう語ってくれた。

 

「旨いもの食べてもらうってのはもちろんだけど、お客さんには板前との会話を楽しんでもらいたいってのもあるんですよ。

初めて来たお客さんにも、緊張しないでリラックスしてもらって、

その人がどういう人なのか、どういうところで働いていて、どういう食べ物が好きで、今どういう気分なのか、そういうことを会話の中で引き出したいと思ってます。

っていうのも、自分がその日に食べてもらいたい魚があっても、お客さんによっては好まない場合もある。そことの折り合いをつけて、その人に一番合ったいいものを食べてもらいたい。まあ単純にわたしたちがお客さんとの会話を楽しんでるってのもありますけど!

寿司屋ってのは、もともと “さらし”の商売ですからね。」

 

 

“さらし”

板前さんの用語として、カウンター席のことをそう呼ぶのだそうだ。

「さらし」、つまり「晒し」。

その言葉から、板前さんは寿司を握るだけでなく、人前に立ち楽しませる という感覚が伝統として意識にある仕事なのだと実感する。

 

―それじゃあ、寿司以外の話題を投げかけてもウェルカムだったりしますか。

 

と尋ねると、

 

「もちろんです、この間はお客さんとワインについて語ったりしましたよ。

今だったらWBCですね。帰ったら必死で見てます、テレビ。日々勉強。」

 

ガハハと笑いながらそう答えてくださったのは、ベテラン職人の荻野さんである。

そんな板前さんの姿に、わたしがグッと心つかまれたのは言うまでもない。

 

「味」だけでない、板前職人としての粋な「心」をここ板前寿司江戸で、是非さらしの席で感じて頂きたい。

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(今回お話させて頂いた、板前寿司江戸 板前の遠藤さん(左)と板前の荻野さん(右))